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■第28回熊本大会 報告

大会委員長:星加民雄

 日本基礎造形学会第28回大会が、崇城大学薬学部および崇城大学ギャラリーを会場に開催されました。本大会は同大学薬学部において平成29年9月9日(土)〜10日(日)に開催、また作品展は市内中心部にある崇城大学ギャラリーにおいて、平成29年9月5日(火)〜9日(土)に開催されました。以下に大会の内容をご報告させていただきます。大会テーマを基礎造形表現に直接関連する「基礎造形要素としての視点位置」とし、外部講師による基調講演と外部講師と学会会員による表現要素と視覚的効果に関する理論と芸術表現の両側面からの議論がクロスするパネルディスカッションを企画しました。
 大会参加者は56名(韓国基礎造形学会3名含む)でした。内訳は口頭発表11件、作品発表30件、韓国からの作品発表(パネル展示)は152点でした。
 大会1日目の9月9日(土)、崇城大学薬学部DDS研究所・大会議室において12時45分より開会式が行われました。日本基礎造形学会会長である村松俊夫先生の開会の挨拶、本大会実行委員長である私の挨拶に引き続き、13時から扇研究家の阿部富士子先生をお招きして「扇に見る折の造形と表現要素としての視点位置」をテーマにした基調講演が行われました。阿部先生は、もともと日本画を専門とした芸術家ですが、現在は扇研究の第一人者として様々なところで講演活動をされております。講演では、日本の文化に根ざした扇の魅力について、放射状に広がる扇の構造に対し錯視的ゆがみを補正しながら表現している扇独特の難しくも美しい表現テクニックの高さをわかりやすく解説されました。葛飾北斎や俵屋宗達の事例を取り上げられ、北斎の扇については、女性達の豊かな顔の表情を折の特性を生かした巧みの世界を見る角度ごとのコマ撮り映像で紹介されました。また表現の裏技の解説事例として、扇面画と扇絵の違いに加え、歪みが生じるプロセスを基本的な形体を事例に紹介されました。一方、扇絵としての保存の難しさや展示の現状などにも触れ、現在の博物館での展示や保存方法への問題提起もされました。後半では、自らがデザインする扇作品の収納ケースや、視点位置と視覚の変化を表現特性に持つアートワークとしての屏風絵作品等について紹介され、本大会テーマである視点位置をキーワードとする日本古来の折の表現を主にご講演いただきました。
 パネルディスカッションでは、筑波大学名誉教授の穂積穀重先生にコーディネーターをお願いしました。ゲストパネラーとして、明治大学研究・知財戦略機構特任教授、先端数理科学インスティテュート所長で、東京大学名誉教授の杉原厚吉先生をお招きしました。会員からのパネラーとして、学会会長である村松俊夫先生、そして私が加わり5人によるパネルディスカッションを開催しました。最初の講演者である杉原先生の表現世界は、視点を限定して不可能な形を再現させるトリッキーな表現です。固定した一つの視点位置から静止した立体を眺める場面を想定した場合、視覚に届く画像には奥行きの情報がなくなります。しかし、画像に映っている立体の形には無限の可能性があるはずであるという観点から数理解析による不可能立体表現にチャレンジしている研究者です。講演では、円柱に見える実像としての形体が鏡越しに見ると四角柱に見える不思議な不可能立体の表現プロセスや、様々な数理プログラムを駆使した不可能立体の表現についての理論を極めてわかりやすく解説していただきました。感覚表現とは異なる数理解析からの表現世界に私達にとって大きな刺激となりました。杉原先生の視点限定表現に対し、村松俊夫先生は視点移動をテーマにしたイリュージョンの表現世界についてご講演いただきました。知恵の輪のようなステンレスパイプの作品の動きの軌跡と錯視効果を導く表現について映像を交えて解説されました。また杉原先生の観点とは異なる視点を投げかけながらの講演内容でしたので、後半のパネルディスカッションでの議論および質疑応答のきっかけを作ってくれました。私の講演は7月15日から23日まで熊本県立美術館・本館で開催した「イリュージョンの科学とアート展」を中心に「視点移動」、「視点限定」など視点位置と視覚効果とその表現要素との関連について解説しました。パネルディスカッションの講演者である杉原先生、村松先生、私が互いに視点位置と錯視表現の共通点でクロスする展覧会内容でしたのでパネルディスカッションのつなぎ的役割の講演となりました。パネルディスカッションでは穂積先生の名コーディネーターのお導きもあり、時間いっぱいの熱気ある質疑応答の時間となり大変盛り上がる充実したパネルディスカッションとなりました。
 基調講演、パネルディスカッション終了後、休む暇なく崇城大学ギャラリーに移動しました。ギャラリートークに合わせた作品の見学時間を設け、16時20分より九州産業大学の三枝幸司先生の司会のもと、発表者の皆様より制作の意図や作品表現における様々な試みについてお話しいただき、活発な意見交換が交わされました。なお、作品展は9月5日(火)から9月9日(土)まで開催され、会員以外にも多くの方々にご鑑賞いただきました。19時より、懇親会を熊本地震で石垣が崩壊した熊本城を一望することができるKKRホテル熊本において開催しました。懇親会は志娥慶香様の素敵なピアノ演奏から始まり、リラックスした雰囲気の中で学会活動の動向や造形教育について様々な意見交換が行われました。懇親会には韓国基礎造形学会会長であるKyungWon Lyu氏、事務局長のGeunseok Han氏もお見えになっており、ご挨拶では、今後の日本と韓国の益々の発展と国際交流に向けての期待を込めたご祝辞をいただきました。

 大会2日目の9月10日(土)、10時00分より2室に分かれて口頭発表が行われました。神戸大学の岸本吉弘先生、中村学園大学短期大学部の古賀和博先生が座長として進行を務める中、基礎造形に関わる様々な研究成果が発表され、発表者と参加者との間で活発な質疑応答が交わされました。  口頭発表終了後、昼食を挟んで13時30分より総会が行われました。神戸芸術工科大学の谷口文保先生の議事進行のもと、各種審議と報告がつつがなく執り行われました。表彰式では徳山容先生、前田和先生、有田信夫先生が名誉会員として選出され盛大な拍手が送られました。最後に、文教大学の久保村里正先生から次回大会について報告があり、来年開催される第29回日本基礎造形学会・埼玉大会に向けて大きく期待を膨らませながら閉会となりました。  大会運営にあたっては至らぬ点も多々あったことと思われますが、皆様のご協力・ご支援のもと、無事大会を終了することができました。紙面をもちまして厚く御礼申し上げます。

■本大会実行委員(敬称略)
大会委員長・事務局長:星加民雄(崇城大学)
大会副委員長:三枝孝司(九州産業大学)
実行委員:森野晶人(崇城大学) 甲野善一郎(崇城大学) 田承?(九州産業大学) 金尾勁(九州産業大学)
金度亨(兵庫教育大学) 岡本明久(九州産業大学) 森下慎也(九州産業大学造形短期大学部)
瓜生隆弘(近畿大学九州短期大学) 有田信夫(アジア造形・教育研究所) 古賀和博(中村学園大学短期大学部)
宮崎桂一(キュービックデザイン)

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